東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)105号 判決 1973年10月26日
原告
国
右代表者
田中伊三次
右指定代理人
山内喜明
外一名
被告
特許庁長官
斎藤英雄
右指定代理人
土居三郎
外一名
主文
特許庁が、昭和三十七年六月四日、同庁昭和三五年抗告審判第二、七七四号事件についてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実《省略》
理由
(争いのない事実)
一<略>
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二本件審決は、本願発明をもつて、第一引用例記載の方法との相違点である石膏を除去した後の処理方法につき第二引用例記載の方法を単にこれに転用したものにすぎないものと断じ、これを前提として、各引用例の記載から容易に推考できる程度のものであるとした点において、判断を誤つたものといわざるをえない。すなわち、特許願および添付明細書、昭和三四年六月二三日付訂正書差出書および訂正書、昭和三五年五月二八日付訂正書差出書および訂正書および第二引用例によれば、第二引用例には本件審決認定のとおりの化成肥料の製造法が記載されており、これを本願発明と対比すると、(イ)具体的な原料は、本願発明においては、燐酸液、苦土含有鉱石、たとえば蛇紋岩、ドロマイト等の粉末およびアンモニアであるに対し、第二引用例の方法においては、燐酸と糖の共存液、水酸化マグネシウムおよびアンモニアであり、(ロ)具体的な反応形態は、前者においては、苦土含有鉱石粉末に燐酸液を加えて鉱石を分解せしめ(分解率は六〇%程度)、燐酸マグネシウムを得、次いでこれをアンモニア化するに対し、後者においては、糖液と共存する燐酸に計算量よりやや以下のアンモニアおよび計算量よりやや過剰の水酸化マグネシウムをもつて中和するものであり、(ハ)目的物は、前者においては、燐酸アンモニウム・マグネシウムを主体とする化成肥料であるに対し、後者においては、糖(ブドウ糖)液と燐酸アンモニウム・マグネシウムの沈澱であることが認められるから両者は、燐酸とマグネシウム化合物とアンモニアとを反応させて燐酸アンモニウム・マグネシウムを生成させる点においては一致するが、具体的な原料、反応形態ならびに目的物およびその分離の必要性において、明らかに相違し、技術的構成においてこのように相違する両者を、単に具体的反応形態の差は具体的な原料の異なることによる相違にすぎないとするのは不当であり、しかも、<証拠>ならびに弁論の全趣旨によれば、本願発明において、燐酸と糖との共存液から燐酸アンモニウム・マグネシウムを沈澱させる反応に際し、既成還元糖、すなわち単糖体(重合度一に相当するもの)が分解ないし破壊されることなく、そのまま残ることは、本発明者の発見にかかるものであり、本願発明においては、このことと燐酸アンモニウム・マグネシウムが水溶性の極めて小さいことを利用して、糖と燐酸との共存液から直接燐酸アンモニウム・マグネシウムを生成沈澱させるので、糖液と燐酸分との分離は容易かつ完全であり、従来法のように高価なアニリンやベンゾールを使用する必要もなく、純度の高いブドウ糖液を収率よく廉価に得ることができ、したがつて、燐酸アンモニウム・マグネシウム肥料をも廉価に生産できるという相乗効果があることが認められ、それぞれ単独では工業的に成立し難い木材糖化工業と燐酸アンモニウム・マグネシウム肥料製造工業とを結合せしめることによつて、両者の成立を容易にしたものということができ、他にこれを覆すに足る証拠はないから、本願発明における石膏を除去した後の処理方法は、単に第二引用例記載の方法を転用したものと断ずることは当を得たものということはできない。したがつて、本願発明の方法をもつて第一引用例および第二引用例から容易に推考しうる程度のものであるとする本件審決の判断は、その前提とする第二引用例のものとの対比の点において、(第一引用例記載の方法との対比の点は、しばらく措く。)すでに誤つているといわざるをえない。
(むすび)
三以上のとおりであるから、その主張の点に、判断を誤つた違法があるとして、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、爾余の点について判断するまでもなく、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)